excitemusic

16年春リニューアルしました! 蒼辰が書くおハナシを随時アップしております。ちゃみのMCともども、読んでやって下さいまし。
by planetebleue
ICELANDia
カテゴリ
全体
読むラヂオ
ちゃみのMC
かたゆでエンジェル
アイドル騎士団
未分類
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


 第1話「誰だか知らないケド、あのステージを壊すことは許せないのデス」その1

『アイドル騎士団・みるきぃクレヨン』
 第1話「誰だか知らないケド、あのステージを壊すことは許せないのデス」その1


00・アヴァン

 あ、ちょと待って。
 だって狭いんだもん。

「ぎゃっ、腕あたった」
「尻で押さないで」
「だってソックス履けない」
「立ってソックス履けないの、老化現象だってよ」
「あちしはだいじょぶ」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「押さないでってば」
 ただいま、狭いせまいスペースでお着替えちう。

 どうしてこんなことになってるんでしょ。


0・宇宙空間

 月の裏側。
 地球から直接観測できない宇宙空間に、チカチカと無数の光りが浮かんでいる。
 ズーム・アップすると、どこかユーモラスなカタチの巨大な宇宙船が、数百隻あまりも停泊しているのがわかる。
 今しもその一隻から、ちっこいちっこい宇宙艇が発進していった。
 目指すは、地球。

 って、なんのこっちゃい。


1・アイドル・デビューッ!

 初めましてっ。
 巌厳学園高等学校アイドル騎士団・みるきぃクレヨンのリーダー、田畑カンナでっす。
 元気い~っしょ。なんせ、アイドルっすから。
 え~、アイドル騎士団とゆうのわ、クラブの名前でございます。
 アイドル部とか、アイドル同好会でもよかったんだけど、それだとアイドル・ファンの集まりみたくなっちゃうので、[アイドル騎士団]なのだそうです。
 ま、顧問の先生のシュミなんですけどね。
 でもって、[みるきぃクレヨン]は、部員によって結成されたアイドル・ユニットの名前であります。
 はっきり言って、ダサイよね。
 メンバーの間でも評判はマチマチです。
 いつか、自分たちで名前、考え直そうって意見も出てます。
 名付け親ですか?
 んなもん、顧問の下川先生に決まってるじゃん。
 それも、自分がミルクレープが好物なので、[ミルクレ]ってゆう短縮形が先にあって、そっから作ったとか。
 それも怪しいと思うケドね。
 一部では、どこかに好きなヒトがいて、そのヒトの好物なんじゃないかって声もあります。
 はい。下川先生は、40代の独身男です。
 あ、あそこ、あそこで、
「アイドル騎士団・みるきぃクレヨンで~す」
 と、チラシを配ってる貧相なおじさんが下川先生です。
 がっこのせんせらしく、よれたスーツに安っぽいネクタイ、くたぶれた靴という出で立ちでございます。
 配ってるチラシには、今日のライヴの案内や、ファンクラブの入会案内、入会費、年会費などなどの情報が満載です。
 ちなみにファンクラブ会員はただいまゼロ。
 今ですよぉ~、今なら会員番号001ゲットですよぉ~。
 なんせ部員たったの5人で、同好会あつかいのアイドル騎士団は、学校からの予算がつかないので、お金がないのが悩みの種なのです。
 5人の部員はもちろん全員[みるクレ]のメンバーでございます。
 下川先生がチラシを配ってるのは、通学路でもある西口商店街の、にしぶち酒店の裏手にある駐車場の入り口らへんです。
 この駐車場が、本日のライヴ会場なのであります。
 ほら、駐車場なのにクルマ一台もいなくて、奥の方に仮設ステージが作ってあるでしょ。
 ステージのバックボードには横断幕がかかってて、一行目に[毎月第4土曜日はGGC Wonderersに会おう!]、二行目に[ツキイチGGC]とあります。
 GGCってゆうのわ、巌厳学園チアリーディング部の頭文字。Wonderersは、その選抜チームの愛称です。
 なんでも、ウチの学校のチア部って、全国制覇12回、世界大会の優勝も2回ってゆう名門チア部なんですってさ。
 そのGGC Wonderersのパフォーマンスを、月に一回、多くのヒトに見てもらおうという商店街イベントの、本日が第一回なのです。
 ウチの生徒や近所のヒトだけじゃなくって、けっこ遠くから見に来るヒトもいるんだって。
 へ~え、GGCってそんなに人気あんだ。
 そう言ったら、メンバーに「え? 知らないの?」とびっくりされました。
 それからとゆうもの、[てんねん]とか「おおぼけ」とか言われるようになったんだけど、なんで?
 ともかく、本日、わたしたち[みるきぃクレヨン]は、そのイベントのオープニング・アクトを務めるのであります。
 いわゆる前座ってヤツですケドね。
 ってゆうか、下川先生がむりやり頼みこんで、いっちゃん最初にちょっとだけやらしてもらえることになったんですケド。
 そいでもなんでも、本年度に発足したばかりの[アイドル騎士団・みるきぃクレヨン]にとって、ヒトサマの前での初めてのパフォーマンス。
 いわゆるひとつの、アイドル・デビューなのであります。
 そしてわたしたちは、
「やっぱピンクがよかったなぁ」
「文句言わない。ジャンケンで勝ったのあちしなんだから」
「そうだけど、黄色だぜ、黄色」
「あたしも、緑って似合わないんだよね」
「着てるうちに似合ってくるって」
「わっ、ポジティヴゥ」
「手ぇ振り回さないでってば」
「だってぇ」
 狭いせまいスペースで、自前のオフホワイトのショーパンと、作ってもらったTシャツに着替えてるとこ。
 メンバーカラーのオリジナルTシャツだぜ。
 お金、どっから出たのか知らないケド。
「ふいっ、おわた」
 どうやら全員着替え終わってドアの外に出れば、そこはヨーコさんの小さなお店、カフェ・フローラルの店内です。
 着替えてたのは、従業員用の更衣室だもの、狭いわけだ。
「さぁ、いよいよだね」
 腰に手をあてて訓示する構えなのは、花柄タイトにクリーム色のニットのヨーコさん。
 ヨーコさんは、下川先生が作詞作曲した曲に、振り付けをしてくれたコーチみたいな存在です。
 ってゆうか、お店の常連の下川先生から、アイドル騎士団結成のハナシを聞きつけ、しゃしゃり出てきたおばさま、じゃなくって、おねえさまってとこでもあります。
 歳? 30代の後ろらへんだと思うよ、多分。
 そいで、昔はアイドルしてたとかって。
 お兄さんが、2階のカラオケ教室の先生ですから、やっぱ芸能関係のヒトなのかな。
 ちなみに、そのお兄さんが、ウチコミというもので、カラオケ音源を作ってくれました。
「今日は初めてなんだし、気楽にいっておいで」
「はいっ」
 声を揃えてお返事するわたしたち。
「失敗してもいいから。それも経験なんだし」
「はいっ」
「よし、行こう」
 ヨーコさんがパンッと手を打ち、
「はいっ」
 元気に返すわたしたち。
 さ、行こうとドアに手をかけると、外からぶいっと開けられて、
「時間だぞ、いいか」
 下川先生でした。
「先生、遅い」
「チラシ配れたんですか」
「あ、うん、7枚」
「ななまいっ?」
 あたしとあと何人か、声が揃った。
「だって、受け取ってくんないんだもん」
 そんな先生です。
「それより、時間だから」
 はいはい、分かってますって。
「行こう」
 声をかけて、真っ先に店を出るわたくし、カンナ。いちおうリーダーでございますから。
 外に出れば、お店が面してる路地の向かいが、会場の駐車場です。
 お、けっこヒト集まってる。
 どきわくで会場に向かいます。
 さ、いよいよアイドル・デビューだぞ。
 *
 その頃、商店街に面したにしぶち酒店では、なにかおかしな出来事が起こっていたようです。
 なにが起きてたんですか? 西淵のおじさん。
 あ、お店だから息子さんのほうだ。
 *
 はい、にしぶち酒店の現役、息子のほうです。
 いや、大したことじゃないんだけど、ちょっと変わったお客さんが来たんだよ。
 銀髪なんだ、髪の毛が。そいで、細面の顔にサングラスしてて、ちょっと見、歌舞伎町あたりのホストみたいなんだ。
 けど、着てるのがモスグリーンの作業服みたいなツナギで、足元がごっついブーツなの。
 違和感ばりばりでしょ。
 そいでいきなり、
「サーモンをくれ」
 ってゆうのよ。
「サーモンだよ、サーモン。ごくごくのへろっ」
「はあっ?」
「なんでもいいからサーモンを出せ」
「シャケ缶でよろしいですか?」
「それはサーモンか」
「はい」
「よし、それでいい」
「かしこまりました」
 で、棚からシャケ缶とってきて、お金もらって、品物渡して、それで帰っちゃった。
 それだけなんだけど、ちょっとヘンなお客だったなぁ。
 *
 なぁ~んだ、そんなことか。
 だがしかし。
 ん? なにが[だがしかし]なの?
 にしぶち酒店を出た銀髪男は、新築4LDK4400万円の不動産広告がくっついた電柱のかげで、スマホ状の通信機を取り出し、なにやら通信を始めたのだそうです。
 スマホ状の通信機?
 スマホのがただの通信機より進化してると思うんだケド、ま、いっか、
 その通信は、こんな感じだったんだって。
「いりてました、サーモン」
「サーモン?」
「はい。シャケ缶ですが、サーモンです」
「なんでサーモンなんだよ」
「シャケはサーモンともいうそうです」
「シャケじゃなくて、シャケテン」
「天ぷらにするのですか」
「じゃなくって、シャケテン、下りる」
「親が?」
「違う、下るの」
「腹が」
「くわぁ~~っ」
「あ、あの、なにか問題が?」
「高度を下げろ」
「は?」
「スルーパのムステーシは、必ず高度の下がった位置にある。シャケンテで高度を下げろ」
「こーどを、下げる?」
 その時、銀髪男のツナギのポケットからは、なにかのコードがぶら下がっていたのだそうです。
 って、なんのこっちゃ。
 だがしかし、このあと、銀髪男には、新たな指令が発せられていました。
 *
 もちろんわたしたちは、そんなことはなにも知りません。
 商店街とそのまわりに、もうあと四人の銀髪男がいたことも。
 計五人の銀髪男を派遣したのが、どう見ても芸人かアニメのコスプレにしか見えない派手はでの制服を着た男だってことも。
 あとあと、こいつらのおかげでとんでもない目にあわされることも。
 知るもんか。
 んなことより、アイドル・デビューッ!


2・もう一曲あるんだけど

 さて、
「きんちょ~するぅ~」
 と、のんびりした声で言っているのが、紫担当のカズラです。
 ふいっ。やっとメンバー紹介にたどり着きました。
 カズラは、メンバーの中でいっちゃん背が高くて、一人だけいっこ上の二年生で、ほいでもって変人です。
「楽しんじゃおぜ」
「うん」
 あたしのコトバに、緊張気味に答えたのが、黄色担当のスミレです。
 このヒト、なんかあたしになついてきます。今も、汗ばんだ手で、あたしの手をぎゅっと握ってます。
 でも、勉強のデキは、メンバーで一番なんだよね。
「ひゅ~っ、たぁ~のしんじゃおぜい」
 と、ぴょんぴょんジャンプしてるのが、ピンク担当のあやりんことアヤメです。
 この子だけ、いっこ下の附属中の三年生なんだけど、アイドル騎士団ができたと聞いてすっ飛んできました。
 根っからのアイドル・キャラなのです。
 そして、あたしの後ろで、すぅ~っと深呼吸したのが、緑担当のミズキです。
 メンバーの中で際立って背が低いのですが、歌も踊りもなかなかのレベルです。わたしたちの中ではね。
 なんつうか、彼女だけが、初パフォーマンスのどきどきより、やってやる的なモノを感じます。
 やや謎めいたキャラで、なんでアイドル騎士団選んだのか、気になってるとこあるんだ。
 そして、リーダーのあたしは赤担当なので、胸に[みるきぃクレヨン]とロゴの入った真っ赤なTシャツを着ております。
 え? メンバーカラーとか、キャラとか、どっかからパクってないか、って?
 いえいえそんな。気のせいですよ。
 気のせいですってば。
 しっかし、ここまであっちゅう間でした。
 なんたって三週間前ですよ。入学式の翌日に、下駄箱から玄関に出たとこでのことでした。きゃうっ、初日終わったぞって、のけ反ってジャンプしたら、「きみきみ」と呼び止められたのは。
 振り向くと貧相なおじさん・・あ、いえ、下川先生が立ってて、
「きみ、アイドル騎士団で活動してみない? きみなら、センターやってもらってもいいな」
 って、要するにスカウトされちゃったんですよ、校内で。
 のけ反ってジャンプしたのがよかったのかな。
 けど、あたしは知らなかったのです。
 アイドル騎士団が、下川先生がシュミで立ち上げたばっかの、ろくに部員もいなけりゃ、予算もない部だってことも。
 下川先生が、片っ端から女子に声をかけてたってことも。
 でもさ、そりゃ悪い気はしませんよ。
 だって、アイドル活動ですよ。なんかJKっぽい高校生活になりそうじゃないですか。
 ま、それくらいの軽い気持ちだったんですケドね。
 それも、あたしらしいか。
 あ、MCの横山さんがステージに上がった。
 このヒト、西口共栄会の会長さんで、[ツキイチGGC]の仕掛け人でもあるんですって。
 なんでも、商店街にスーパーだとか、輸入食料品店だとか、お店を4軒も持ってるとか。
 あ、マイク構えた。
 いよいよだぞ。
「ご来場のみなさま、お待たせいたしました」
 わぁ~っと拍手がおきる。
 ステージの前に四角く並べた椅子席はほぼ埋まってる。その左右と後ろには立ち見のヒトもいて、まだまだお客さんが入ってきてる。
「今月から始まりますツキイチGGCは、毎月第四土曜日に、ここ西口共栄会駐車場を会場に、みなさまにGGC Wonderersの華麗なパフォーマンスをたっぷり楽しんでいただこうというイベントでございます」
 またまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「なんといっても、巌厳学園チアリーディング部は、地域の誇り、地域のアイドルでございます」
 またまたまた、わぁ~っと拍手と歓声。
「しかし、お楽しみはちょっとだけ後まわし。先ずは巌厳学園のアイドル騎士団のメンバーが、オープニング・アクトを務めます」
 ええ~っ。
 ブーイングまでいかないけど、会場にがっかり感が流れてる。
 やだなぁ、アウェイかよ。
「それでは、みるきぃクレヨンのみなさんです。ど~ぞ~」
「行くよ」
 さっと手を出すあたし。メンバーが、つぎつぎと手のひらを重ねる。
「みるきぃクレヨン、お~っ」
 せめて気合いくらい入れなくっちゃ。
 ぱらっぱらっ。まばらな拍手に迎えられ、わたしたちは小走りでステージに上がったのであります。
 *
 その時、ステージから見て左手の駐車場入り口から、にしぶち酒店でシャケ缶を買った銀髪男が会場に入ってきました。
 あ、もちろん、わたしたちにはそんなの見えてなかったんですケドね。
 銀髪男はじろり、ステージではなく、観客席の人々をサングラスごしにねめまわしております。
 やがて・・・。
 ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ。
 小さな電子音とともに、銀髪男のサングラスの視野で、一人の男性の顔の横に、赤い小さなアイコンが点滅していました。
 すると銀髪男は、男性から視線をそらさないようにしながら、そちらに向かって移動しはじめました。
 なんなの?
 その男のヒトに、なんの用があるの?
 ターゲットとなっていたのは、ステージから見ていっちゃん後ろ。ちょうどにしぶち酒店の裏の壁に寄りかかって、あたしたちに拍手してくれてる白髪のおじさんだった。
 ん? それって、西淵のおじさんじゃない。
 西淵のおじさんは、息子さんのほうの父親で、って当たり前か。わたしたちの数少ない協力者の一人で、西口共栄会の前会長で、義経マニアでもあります。
 あ、応援してくれてる。
 *
 さ、ステージに上がったわたしたち。
 頭の中ですらっとセトリを確認。ったって、3曲しかないんだけどね。セトリってコトバ、使ってみたかったんだもん。
 マイク持って横一列。センターはもちろんあたし。
「せ~の」で、みんなでご挨拶。
「みるきぃクレヨンでっす。よろしくお願いしま~す」
 うふっ。アイドルっぽい。
 ケド反応がない。
 ま、しょうがないか。
 さ、曲紹介だぞ。
「それでは聞いてください。『学園のある町』」
 下川先生がラジカセをぴっ。MDに入ってるカラオケ音源がイントロを奏でます。
「せ~の」
 教わったとおりの振り付けで、踊りはじめるわたしたち。
 みんなの目がこっち見てる。
 けどなんか、思ってたのと違う。白けたような、冷ややかなような、そんな視線。
 ただでさえ緊張してるのに、これヤバイかも。
 さ、歌だ。

♪学園のある町には
 いつでも夢が駆け抜ける

 あちゃ、出だし遅れた。
 誰か、音程外してる。

♪駅からつづく長い坂道の~ぼ~り~
 振り向けばそこに
 ほら 輝く未来が広がっているぅ~

 正直、ノリの悪い曲です。
 さ、間奏だ。ターンのあるパート。
 うきうきのりのり、でもってターン、ってヨーコさんに教わったんだけど、みんなうきうきのりのりじゃないぞ。
 くるっと回って正面向いたら、あれ、空気が変わってる。
 笑ってるヤツがいる。おしゃべりしてるヤツがいる。
 お客さんをヤツ呼ばわりするな、って? でも、うちのがっこの生徒なんだもん。
 ほかのメンバーも気づいてるかな。
 気になるけど、センターにいるとほかのメンバーの動き、ぜんぜん見えない。
「学芸会」
 ヤジが飛んだ。
「ラジオ体操」
 別の声だ。
 そりゃわたしたち、期待されてるわけじゃないし、結成三週間、へたっぴなのは分かってるけど・・・。
 ざわざわざわ、にやにやにや。
 ゆるんだ会場で、わたしたち、浮いてる?
 そう思ったら、しゅわ~んと視野が遠くなった。
 いっちゃん後ろの西淵のおじさんが、心配そうに見ている。
 でもってそこに、銀髪男が近づいてる。
 けど、それどころじゃなかった。

♪ひろぉ~がっているぅ~

 チャチャン、チャンチャチャン、チャ~ン。
 ふいっ、一曲目が終わったぜ。
「ありがとうございましたぁ」
 声を揃えて、一同、礼っ。
 拍手がぱらっぱら。
 ざわめきとかすかな笑い声。
 こっち見てるみんなの目が、どれも冷たく見える。
「カンナ、曲紹介」
「あ」
 スミレに促されて、我に返った。
「つぎの曲、聞いてください。『風を追いかけて』」
 うっ。声が裏返ってる。
 下川先生がラジカセをぴっ。さっきと似たようなイントロが流れ出す。
 練習どおりに踊りはじめて、一回ターン。
 チラッと見えたメンバーの顔が、なんかひきつってる。
 けど、やりきるっきゃないっ。
 歌っ。

♪長い坂道を~
 駅に向かって下ってゆこう
 風を追いかけて 風を追いかけて
 いつか追い越せる
 その日に向かって

 最初の曲と、行きと帰りみたいな曲です。ま、下川先生の作詞作曲ですから。
 けど、それどころじゃなかった。
 誰か、声がうわずってる。次の出だし、誰か遅れた。自分が音程外しまくってるのは分かってたけど、ほかのメンバーもだ。
 体、動いちゃいるけど、びしっとしてない。なんかロボットみたい。
 ぎごっ、ぎごっ、ぎごちなっ。
「も~い~」
 誰かが叫んだ。
「そんなもんでやめとけ~」
「時間のむだぁ~」
 どっと笑い声が起こる。
 間奏の間、必死こいて体動かしながら、涙目になってきた。

♪青い空の下を~

 二番の出だしといっしょに、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールが起こった。
 ラジカセのカラオケも聞こえない。自分の声も聞こえない。
「ジージーシー、ジージーシー」
 コールの圧力でもうばんらばんら。ぐちゃぐちゃになってた。
 足が震えて、がくがくして、情けなくて、そしてとうとう涙が一筋、ほっぺたを落ちた。

♪はしぃ~ってゆ~こ~を~

 もう歌なんかじゃない。一人ひとり、ただ叫んでるだけみたいな感じ。
 ともかく、短いエンディング。
 中央に集まって、ばらばらだけど、ともかくポーズ。
「ありがとうございましたぁ」
 その声も、「ジージーシー、ジージーシー」ってコールにかき消された。
 合間に、「早く引っこめぇ~」とか「さっさと帰れぇ~」とか聞こえてくる。
 もう一曲あるんだけど。
 あたしが一番、好きな歌が・・・。

[その2につづく]
[PR]
by planetebleue | 2016-04-28 17:16 | アイドル騎士団
<< 新作、upしましたぁ!  第1話「誰だか知らないケド、... >>